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最高裁判所第二小法廷 昭和26年(ヤ)3号 決定

甲府市太田町五九番地

申立人

井上愛子

右代理人弁護士

青柳孝

東京都中央区京橋三丁目一番地ノ一

相手方

第一生命保険相互会社

右代表者取締役

佐藤菊太郎

右申立人から当裁判所昭和二四年(ク)第七八号保険金請求事件の管轄違移送決定に対する再抗告事件につき、当裁判所が昭和二六年二月一二日なした抗告棄却の決定に対し、再審の申立があつたので、当裁判所は裁判官全員一致の意見で次のとおり決定する。

主文

本件再審の申立を却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

申立人が再審事由として主張するところは、申立人は東京高等裁判所が昭和二四年一一月一二日なした決定に対し右決定は民訴九条の解釈を誤つたものと主張し、すなわち民訴四一三条により右決定の法令違背を一理由として抗告したのであるが、最高裁判所のした原決定は、右の点につき何等の判断をしていないから民訴四二〇条第一項第九号にいわゆる重要なる事項につき判断を遺脱したものであるというにある。併しながら最高裁判所が抗告に関して裁判権をもつのは、訴訟法において特に最高裁判所に抗告を申立てることを許した場合に限られる。そして民事事件については、民訴四一九条の二に定められている抗告のみが右の場合に当ることは当裁判所の判例とするところである(昭和二二年(ク)第一号同年一二月八日決定参照)。従つて最高裁判所に対する抗告申立には同四一三条は適用がないのであるから、同条による法令違背の主張については、最高裁判所において判断すべき限りでない。従つて原決定が申立人の所論主張について判断していないのは当然であつて、本件再審申立事由は民訴四二〇条一項九号に該当しない。よつてこれを却下すべきものとし、申立費用は申立人の負担とし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

昭和二六年(ヤ)第三号

抗告人 井上愛子

抗告代理人青柳孝の再審申立理由

一、原審抗告申立の抗告理由とする処は民訴第九条の解釈を誤りたる抗告裁判所(東京高等裁判所第四民事部)の決定に法令違背を理由とし民訴第四百拾参条に基き再抗告を為したものである原審抗告状に明記してある。

更に之を摘録すれば「抗告理由第参点、前略、因つて民訴第九条を検討するに同条は本人又は本店を保護する規定ではなく営業所と取引を為した第三者のためによる便宜規定である即ち民法第四拾四条に所謂「他人」並百九条第拾条の表見代理又七百拾五条の第三者の如き地位にある者を保護するために設けられた事は疑ないされば其関係は本店対営業所でなく営業所対第三者との関係に基きて之を定むべきであり民訴第九条の「業務に関する限り」とあるは民法第七百拾五条の「事業の執行につき」と同様に解すべきである。

而して山梨支店なる名称は支店と解し得べく支店なる意味は本店の地域的一部である山梨県一般につき分掌処理する趣旨なる事は一般人の常識より解し得らるる処である。

従つて民法第百九条の他人が代理権を与えたる上告を表示したるものと解すべく其当然の結果として第三者に取引を為したる支店の行為は本店に効力を及ぼすものである」後略

と明記し抗告裁判所の決定に対し民事訴訟法第四百拾参条に依り再抗告を為したものである。

然るに御庁に於て為したる決定は右法令違反の抗告人の主張に対し何等の判断を為さず抗告理由第参点の違憲についてのみ審判したのみである。即ち原決定は、

「又所論のように原決定に民法第壱〇九条民訴第九条の解釈に誤りであると仮定しても云々」と説示したに過ぎない。

抗告人の御庁に訴えた所以は民訴第九条の解釈を求めて居るものであり従来の判例を変更すべく主張して居るものである事は抗告理由全般を通じて明かであるそれにも拘らず従来の説示なく「解釈の誤りがあると仮定するも」と判示されて居るが其仮定を説明し抗告人をして又一般生命保険加入等をして納得せしむるに足る法律上の根拠を示して欲しいものである。

若し御庁の御見解にして正鵠であるならば抗告人も従順に服従すべきも何等の説明なく判断なく事案を御処理ありたるは甚だ遺憾である処である。

民訴第四百弐拾条第一項第九号に該当することが明かなりと思料するを以て茲に再審の申立を提起した次第であります。

附属書類

一、委任状 一通

以上

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